膠原病内科日記

膠原病・不明熱・間質性肺炎に関して勉強します。X:https://x.com/rheumafuoild/

RAの分類基準

Classification of rheumatoid arthritis: is it time to revise the criteria? | RMD Open

を読んだ。

 

=============================================================

▪️関節リウマチ(RA)の診断基準
ACR/EULAR2010はACR1987の欠点である早期診断(つまり関節破壊が起こる前の、小関節なら1個以上、大関節であれば2個以上の時点での関節リウマチの診断)を行うために開発された。
ACR1987
1. 朝のこわばり:改善に1時間以上かかる
2. PIP、MCP、手、肘、膝、足関節、MTPの左右で計14のうちから同時に3領域以上の関節炎
3. 手、PIP、MCPの少なくとも1領域の関節炎
4. 対称性の関節炎
5. リウマトイド結節
6. RF陽性
7. X線上の手/指関節の骨びらん、近傍の骨萎縮
4項目以上をRAと分類
*1から4は6週間以上持続
ACR/EULAR2010
A.罹患関節
 大関節 1ヶ所 0
 大関節 2~10ヶ所 1
 小関節 1~3ヶ所 2
 小関節 4~10ヶ所 3
 1ヶ所以上の小関節を含む11関節以上 5
B.血清学的検査
 RF-,ACPA- 0
 RFまたはACPA低力価陽性 2
 RFまたはACPA高力価陽性 3
C.急性炎症反応
 CRP正常かつESR正常 0
 CRP異常またはESR異常 1
D.罹患期間
 6週未満 0
 6週以上 1
6点以上をRAと分類
 
感度は上昇したが、特異度は低下した。
 
とくに超早期炎症性関節炎コホート(SAVEコホート)での検証では誤分類された患者の20.5%はRF、またはACPAが陽性であった。大部分がRF陽性であるのに対しACPAが検出される可能性は低かった。
 
→RFとACPAが同じ重み付けなのが原因では?
 
▪️実際の早期関節炎コホートでのRF/ACPAとRAの診断
・SAVEコホートのデータではACPA+/RF+は非常に高い特異性を有していた。*力価に依存なし
・ACPA単独陽性に関してもnon-RAは3/193であり非常に特異的であることがしめされた。
・対照的にRF単独陽性は高力価であってもRAと非RAを区別しなかった。

Application of the 2010 ACR/EULAR classification criteria in patients with very early inflammatory arthritis: analysis of sensitivity, specificity and predictive values in the SAVE study cohort

 
→RFとACPAがおなじ点数なのはどうか?第7回International Congress on Controversies in Rheumatology and AutoimmunityでRFとACPAの重み付けに関する話合いが持たれた。
 
▪️ACR/EULAR 2010の修正案
  1. ACPA- RF低力価陽性はRAに特異的ではない
  2. ACPA- RF高力価陽性はRAを示唆するが特異的ではない
  3. RF- ACPA陽性はRAに非常に特異的
  4. ACPA+RF+のdouble positiveはRAに高度に特異的でACPA単独陽性より特異的
以上をもとに下記の様に提案された。

 

→これを上記のSAVEコホートに適応すると誤分類が79%から47.4%に減少した。
*改良されたスコアリングは関節炎がなくても6点を満たす場合があり注意が必要(基本的には滑膜炎が必要)
 
おまけ
▪️@ risk患者
この患者層はすでに2013年に抗体ごとに層別化されたスコアリングが作成されている。

A prediction rule for the development of arthritis in seropositive arthralgia patients

 

(コメント)

臨床的にはRFとACPAの重み付けがことなり、ACR2010は参考程度になっていたが、ACPAとRFのポイントが異なればより実臨床に近いスコアになるだろう。RF単独陽性の場合最低でも小関節4関節以上、あるいは小関節を1個以上ふくむ11個以上の関節腫脹がない場合RAへの分類が難しくなり、それでいいのかはさらなる検証を待ちたい。

巨細胞性動脈炎の拡散強調像での簡便な診断方法に関する研究

巨細胞性動脈炎(GCA)の診断においては側頭動脈生検と超音波検査がゴールドスタンダードとされており、その代替として造影血管MRI(3テスラ、T1-BB)が推奨されており、感度80%、特異度100%と報告されている。
今回拡散強調画像を用いて簡便にGCAを診断する方法が報告されているので紹介する。
 
先行報告
①大動脈病変においてMRIの拡散強調がPET集積と一致していた研究

②上記の研究を受けて側頭動脈をDWIで評価:DWI scalp dot sign

*T1BBとDWIのdot signの診断能が同程度であることを示した研究
============================================================
そして今回ゲシュタルトによる診断:DWI scrolling artery sign(DSAS)”
スクロールするときの血管の印象(皮下組織内のDWI高信号)を左右の前頭、後頭で評価
 
スケールで2以上を高信号と定義
0:なし
1:わずかに動脈が見える(slight)
2:著明に動脈が見える(prominently)
3:明るく動脈が見える(brightly)

 

GCA患者(87人)のうちDSASを持つ患者は3~4領域:33人、2領域:14人、1領域:17人(計64人,73.6%)であった。
コントロール(PMRや一次性頭痛、AIONなど)の患者では69人中4人で陽性であった。
DSASはT1BBと比較して、GCAの診断に関して感度 73.6%、特異度 94.2% (専門家)、59.8%、特異度 95.7% (初心者) を示した。

 

(コメント)

確かに当院のGCA患者で見てみてもDWIで高信号があり、病理結果とも一致している印象であった。側頭動脈ができない or 結果が早く知りたい状況だが、超音波検査を当てられないシチュエーションでは参考になる所見と思われる。

NSAIDsに対する反応性で慢性腰痛患者の中からaxial SpAを区別可能か?

今年に入りARDでリウマトロジストの慢性腰痛患者におけるaxial SpAの診断率に関する論文が出版されたが、その中で慢性腰痛の中からaxial SpAを見分けるポイントとして"NSAIDsの反応性"が抽出されていた。
以前よりaxial SpAの診断においてNSAIDs反応性は強調されてきたが、今回axial SpAにおける慢性腰痛に対するNSAIDs反応性の診断的有用性に関する研究が出版された。
結論として、少なくとも長期罹患したxSpA患者においてはNSAIDs反応性で鑑別することは困難なことが示唆された。
 
 
===========================================================================
 
前向き研究
P:45歳以前に発症したNRS4以上の慢性腰痛を持つAxSpA疑いで三次病院に紹介された患者
→結果的に233人が研究に組み入れられた( axSpA (29%)、非特異的慢性腰痛 (25%)、変性性腰痛 (46%))
*椎間板ヘルニアなど他の原因がある場合には組み入れの段階で除外

 

axSpA患者(ASAS criteriaに則って経験豊かな臨床医の診断)
・平均年齢は42.7歳(SD 10.7)
・腰痛の平均症状継続期間は15.1年(SD 11.1)年
・57.4%が男性
・平均 BASDAI は 5.5 (SD 1.8)
・平均 BASFI は 4.5 (SD 2.5)
・IBP(ASAS) 61.8%
・平均NRS 5.9
 
非 SpA 腰痛患者
・平均年齢は 49.3 (SD 11.1) 歳
・腰痛の平均症状持続期間は 14.6 (SD 11.9) 年
・19.4% が男性
・IBP(ASAS) 46.7%
・平均NRS 6.3

 

 

E:48時間のwash out期間を経たあとNSAIDs (最大量 種類はなんでもよい)を組み入れ2時間後から開始
セレコキシブ 63.5%、ナプロキセン 20.2%、アセメタシン 12.9%、イブプロフェン 3.4%
前年に最大用量のNSAIDを使用した患者は除外
 
結果:
・NSAIDs に対する「何らかの反応」は、NRS が 2 単位を超える腰痛の改善として定義され、「良好な反応」はベースラインと比較して 50% を超える改善として定義された

 

 
sub group
①IBP→差なし

 

CRP→差なし

 



(コメント)

NSAIDsの反応性は教科書的には重要視されているが実臨床ではそんなんで区別つくのか?と思っていたが案の定の結果だった。(4週時点では差があるようにも見えるが非SpA群も反応性あるためこれだけの鑑別は困難)

キャラクターに目を向けるとCRPやHLA B27も顕著な差はないため、診断は難しい印象。

発症早期のaxial SpAの研究が待たれるところ。

Fever of unknown origin (FUO) と Inflammation of unknown origin (IUO)の違いに関するSR/MA -FUOとIUOで最終診断は異なるか?-

最近ばんばん不明熱研究を出版しているUniversity Hospitals LeuvenのAlbrecht Betrains先生の新作。

Comparison of diagnostic spectrum between inflammation of unknown origin and fever of unknown origin: A systematic review and meta-analysis

 

今までの研究:

rheumafuoild.hatenablog.com

rheumafuoild.hatenablog.com

 

FUOとIUOの違いのMA/SR
2009/7~2023 /12
サンプルサイズが20以上のFUO(簡単にいえば原因不明の炎症+、発熱+)とIUO(原因不明の炎症+、発熱-)双方を含む研究
*HIV関連、院内関連、免疫不全関連(IgG≦750 or 好中球≦500)、16歳以下を対象とした研究は除外
**FUO/IUOはPetersdorf-Beeson criteria , Durack-Street criteria, De Kleijn criteria のどれかを満たす

→IUO vs FUOでIUOに関して
感染自己炎症性疾患(AOSDやシュニッツラー、FMFなど)の可能性を下げる
・逆に血管炎RA/SpAの可能性を上げる

 

また、同グループからFUOとIUOのPET-CTの診断寄与に関して以下のような報告があるHigher diagnostic yield of 18F-FDG PET in inflammation of unknown origin compared to fever of unknown origin
2009~2019年にPET-CTを受けたFUO/IUO患者を後ろ向きに検討
患者604人のうち、439人(73%、平均年齢56歳、女性43%)がPET-CTを受け、うち349人(79%)がFUO、90人(21%)がIUOに分類された
 
・FUOとIUOではIUOにおいて診断にPET-CTが寄与する割合が高い(aOR 2.21 [95% CI 1.31-3.72]; P = 0.003)
・特にIUOではGCA(IUO 25% vs FUO 12%)PMR(IUO 17% vs FUO 1%)の診断が多かった
・また、PETCTは再発パターンすでにCTを撮像している場合には診断に寄与する可能性は有意に低くなった

まとめ:

不明炎症患者(炎症はあるが熱が確認できない患者)では特に血管炎を念頭に鑑別を進めるといいかもしれない。

(が、実臨床では患者の背景や病歴に合わせて一例一例考えるべきだろう、あくまで目安や肌感覚として知っておく程度にとどめておこうと思う)

 

 

【まとめ】低ALP血症の鑑別

CPPDの原因として低ホスファターゼ血症が知られている。
今回低ALP血症を伴う偽痛風を経験したので、低ALP血症についてまとめた。
 
====================================
 
・ALPはアルカリ性(至適PH=10・・・血液中では不活化)の環境でリン酸モノエステルを加水分解する酵素
・ほとんどの臓器に分布しているが、特に肝臓、骨(骨芽細胞)、小腸粘膜上皮、胎盤などに多い
・主な役割として①骨形成②腸からの脂肪輸送がある
 
ALP低下の原因として以下の疾患が知られている

 
・ALPでは2つのMgと4つのZnがそれぞれ活性化部位を担っている
・完全に活性化された天然型ALPは(ZnAZnBMgC)2 enzymeと呼ばれる→活性化の際にMgやZnが必要
・実際に低Mg、低Znの患者でALP低下が認められている

Low Alkaline Phosphatase (ALP) In Adult Population an Indicator of Zinc (Zn) and Magnesium (Mg) Deficiency

 
・本邦の亜鉛欠乏症の診療指針2018でも亜鉛欠乏症の診断基準の一つとしてALP低下が含まれている

マグネシウムの低下は痛風を起こしうるため注意が必要である

 

 
甲状腺機能低下
・in vitroの研究でT3が骨芽細胞のALPを活性化させることを示した=甲状腺機能亢進症で上昇する
甲状腺機能低下とLFTを調べた研究ではALPは有意差を認めなかった
 
ビタミンC
・vitC低下でALP活性低下が引き起こされる豚の実験
 
骨髄腫
・溶骨性病変であり、骨芽細胞が増えないためALP上昇しないのが特徴
・二次性の骨折などで上昇することもある
(参考:異常値の出るメカニズム 第2版)
・MMのALPにフォーカスした研究では正常をとることが多かった
 
低ホスファターゼ症(Hypophosphatasia=HPP)
・ヒトには4つのALP遺伝子(ALPL、ALPI、ALPP、ALPG)が存在
ALPLがコードする組織非特異型ALP(Tissue non-specific ALP=TNSALP)は肝臓・腎臓・骨に多く発現し、組織特異的な糖鎖付加による翻訳後修飾で肝臓型ALPや骨型ALPになる
ALPIは小腸型、ALPP胎盤型、ALPGは胚細胞型ALPをコードしている
 
・HPPではALPLの異常が原因でTNSALP活性が低下し、ピロリン酸が分解されずに体内に蓄積する→石灰沈着

(参考)

異常値の出るメカニズム 第2版
 
・HPPは発症年齢や重症度に幅があり、通常、「周産期重症型」「周産期良性型」「乳児型」「小児型」「成人型」「歯限局型」の6病型に分類

 
・成人型低ホスファターゼ血症は以下のような特徴を持つ
 ・小児HPPより軽症では異質性が高い
 ・受診時には2/3に症状があり、主に筋骨格系の痛みと骨折を訴える
 ・成人HPPの40~55%に骨折の既往歴があり、1/3では複数回の骨折歴がある
 ・最も多い部位は足(中足骨疲労骨折など)や大腿骨だが、どの部位でも良い
 ・骨折は治りが悪く、再発の可能性がある
 ・骨密度は低い、正常、高い全ての場合がありうる
 ・歯の早期喪失は一般的な特徴
 ・骨軟化症の病歴がある
 ・成人HPPの10~25%に関節周囲や軟骨への石灰沈着を認める
 ・痛風は5~15%で観察される可能性がある

Hypophosphatasia - PMC



・実際にCalcific periarthritisが唯一の症状であった低ホスファターゼ血症の報告もある

 
(コメント)
二次性の低ALP血症で偽痛風まで起こすかはわからないが、マグネシウム欠乏との複合でCPPD沈着症を起こしてもいいだろう。二次性のCPPD症には注目していきたい。

【まとめ】成人発症IgA血管炎

IgA血管炎は別名"アレルギー性紫斑病"や"ヘノッホ・シェーンライン紫斑病"とも言われる主に小児で発症する血管炎である。しかし稀ながら成人でも発症し、成人例では小児例と違った臨床像を呈すことも多い。また小児ではvirusに随伴したものや特発性が多いが、成人では背景に疾患や原因となる薬剤が認められることが多い。さらに小児では経過観察で自然軽快することも多いが、一方で成人例では治療が必要になる場合も多い。しかしながら治療推奨は小児のエビデンスで示されることも多く、定まったものはない。
今回IgA血管炎に関してまとめた。
 
<総論>
■病態
IgA血管炎の病態はまだ完全にはわかっていないが、本来補体活性化能の低いIgAが病原性を持つのはIgA腎症と同様にIgAのヒンジ部 O 型糖鎖にガラクトースが欠損しているIgA1(galactose deficient IgA1:Gd-IgA1)が関連していると言われている。このGd-IgA1を認識するIgGが産生されることで免疫複合体が形成され、炎症が惹起される。またGd-IgA1が増加しているだけではIgA血管炎は発症せず、感染や薬剤などの"second hit"がIgA血管炎の発症に重要であると考えられている。(by Kelly)

 
 
■診断 IgA血管炎の3主徴 "紫斑、腹痛、関節痛"
診断基準:2つ
①1990 ACR
 
②2010 EULAR/PRINTO/PRES

成人の診断基準はない 
実臨床ではIgA沈着優位のleukocyteclastic vasculitisを生検で証明したり、身体所見+症状で臨床診断されることが多い。
 
■疫学
・小児では毎年3.0~26.7人/100,000、成人では0.8~1.8人/100,000の頻度で発症する。
男性優位に発症(M:F=1.5:1)
・小児では秋〜冬にかけて多くみられるが、成人では一貫した発症しやすいシーズンは示されていない
 
<臨床症状>
■皮膚症状
・ほぼ全例で症状あり
・IgA血管炎は流速が低下しやすい下肢に発症しやすいことは共通している。

Palpable-purpura-diffusely-spread-throughout-the-right-lower-extremity

Cureus | Adult-Onset Immunoglobulin A Vasculitis Following Hemodialysis Treatment: An Unusual Presentation

 

・成人例ではやや体幹(37.4%)に多い傾向にある。
・有意差を持って潰瘍性病変(10.9%)が多い。

by Mayoにおける小児IgAVと成人IgAVの比較研究(後向)
 
・皮膚の壊死(25%)や血包(8~12%)も多い。

Hemorrhagic Bullous Immunoglobulin A Vasculitis in an Adolescent

by スウェーデンにおける成人発症IgA血管炎の特徴
 
→これらの小児のIgA血管炎では非典型的な皮疹はIgA血管炎の診断を否定するものではなかったことが示されている。
 
頭頸部病変は小児例で多いが成人例では少ない頭頸部の紫斑を持つ患者では皮膚潰瘍や治療反応が悪い傾向にあった。また腎outcomeが悪い傾向にあった。

 

 

■筋骨格症状
30~60%で関節症状が報告されている
・関節炎は16%程度である
・全体的に成人例では小児と比較して少ない
・一般的な特徴として一過性、遊走性、非びらん性
・下肢の関節(膝・足関節)に多い
関節炎のみで発症することは稀
MayoクリニックのMalthew J Koster先生のACR2023での発表より

 

■消化器症状
37~65%で消化器症状を伴う
・最も一般的な症状は疝痛のような腹痛で、続いて血便・下痢・吐き気・嘔吐の症状がある
・重症例では手術が必要な血性の下痢(2~4%)イレウス(6.5%~9%)
・腹部症状のある患者では13因子や便潜血を行うことを提案する人もいる

MayoクリニックのMalthew J Koster先生のACR2023での発表より

 

 
★13因子とIgA血管炎
13因子の低下は関節炎スコアや腹部症状スコアと相関していたが腎臓スコアとは相関していなかった

 

■腎障害

・通常数週以内に腎臓症状を発症する。数ヶ月後に発症する可能性がある。
・赤血球円柱がなくとも顕微鏡的血尿 or 肉眼的血尿はIgA血管炎腎症(IgAV-N)を示唆する感度の高い検査
・小児に腎症を呈することは稀で成人例では AKIの発生率は最大32%に達する
・IgAV-Nの10~30%ではCKDに移行する

MayoクリニックのMalthew J Koster先生のACR2023での発表より

 

★IgA血管炎とIgA腎症の比較

→IgANの方が慢性腎障害はつよい

違いとしてはIgAVではフィブリノーゲンの沈着が強く、凝固も活性化していた
 
■神経障害
・神経障害はまれ。

 
 
・リテラチャーレビューを行い、54件の神経障害を伴うIgAVの報告があった
ほとんどが高血圧に関連した症状で、末梢神経障害などはやはりまれ

 

 

■稀な症状

・肺胞出血:
IgA血管炎で肺胞出血をきたしたケースとリテラチャーレビュー

 
 
・睾丸梗塞:

Testicular infarction in an adult patient with systemic IgA vasculitis | Clinical Rheumatology

 
・中枢神経病変:
PRESやCNS vasculitisの報告がある

 

 
・眼
強膜炎・角膜炎の報告:
 
 
<治療>
・小児の94%、成人の89%は自然に治癒するため対症療法が主な介入となる。
・対症療法としては関節痛にはアセトアミノフェンやNSAIDsなど。
・腎臓病変を重なう場合はステロイドを必要とする場合もあるが、小児のRCT(PSL1mg~2mg/kg 14日間 vs placebo)では12ヶ月時点での蛋白尿減少効果は示されていない。
・コクランレビューでも腎炎の予防に関してステロイドの効果がないと結論付けられている。
・腹痛や関節症状の改善に関しては1~2日早く改善することが示されているため、対症療法で改善しない場合には考慮しても良い。
免疫抑制剤は重度の腎障害を伴う例に考慮されており、シクロスポリンとMMFステロイド抵抗性腎症の治療に関するRCTで有効性を示している。またダプソンとRTXも重度の皮膚病変や腎症を持つ患者に早期の有効性を示している。
 
成人に関しては主に以下のような研究がある:

Adult-onset IgA vasculitis (Henoch-Schönlein): Update on therapy

 
★MayoクリニックのMalthew J Koster先生は以下のような治療を提案している

 

<予後>
30%の患者が再燃(中央値; 1ヶ月)を経験し、成人の場合は消化管症状・関節症状の有無が再燃の予測因子となった。
・再燃は 皮膚(80%)>>>消化管・腎臓・関節 の順に多い。

Relapses in patients with Henoch-Schönlein purpura: Analysis of 417 patients from a single center

 
<CQ>
①IgA血管炎のルーチン検査で検査可能な重症度のバイオマーカーはあるか?
=好中球/リンパ球比の高値が重症度と関連

 

 
②IgA血管炎でANCA陽性は予後に関連するか?
=IgA 血管炎患者 86 人中 5人(5.8%)がANCA陽性で全員がMPO-ANCA 
ANCA+IgA血管炎は
・肺、神経へのIgA血管炎が多かった
・腎臓病変に有意差はなかった
・腎組織学的特徴、腎機能に関連する不良転帰に有意差はなかった
③誘発因子は?
・感染との関連
=感染関連のIgA血管炎は感染を伴わないIgA血管より予後良好な可能性があり聴取は重要!
感染には非特異的なものから、肺炎、腎盂腎炎、副睾丸炎、蜂窩織炎、FUOが含まれた

 
・腫瘍との関連
体幹に皮疹があると悪性腫瘍多い?
=関係なさそう 壊死は少ない

❷悪性腫瘍との関連
=特に大腸、膀胱癌、肺がんが多い(IgAなので粘膜に関連した腫瘍が大事)

悪性腫瘍関連のIgA血管炎は一貫してIgAの値が高い傾向にある(4.5 vs. 3.6 g/L; p < 0.0083)
 
 
・薬剤性誘発性のIgA血管炎
→ワクチン関連が多いが、抗生剤に関連するものも多い。最近ではTNFα阻害薬やDOACによるものも報告されている。

薬剤関連の症例では糸球体腎炎少ない(かも)
 
❶TNF阻害薬誘発性
IBD患者でTNF誘発性のIgA血管炎多い?(TNF阻害再開でIgAV再燃)

IgA vasculitis in patients with inflammatory bowel disease: new insights into the role of TNF-α blockers

・TNF使用中の血管炎 39人のうち2人で腎臓にIgAの沈着が見られた
 
❷IL17阻害薬誘発性
・Seckinumab誘発性のIgA血管炎
 
❸DOAC誘発性

Complementary Use of U.S. FDA's Adverse Event Reporting System and Sentinel System to Characterize Direct Oral Anticoagulants-Associated Cutaneous Small Vessel Vasculitis - PMC

 
(コメント)
今後は他の血管炎のようにリツキシマブが使用されるようになるのだろうか?
 

PMRの炎症の首座=perimysium/peritendiumの炎症?

リウマチ性多発筋痛症(PMR)といえば"滑液包炎"という印象もあり、関節リウマチと比較する上でも身体所見・画像所見双方で重要視されてきた。滑液包炎も確かに重要であるが、上腕二頭筋長頭や膝下筋腱、腱板炎などの炎症、果ては関節包の炎症もあり、近年ではPMRの炎症がperimysium/peritendiumという膜を含む関節周囲から発生しているのでは?という説が提唱されている。今回Rheumatology Advances in Practiceに掲載された論文は一昨年のACRで発表されていた内容を論文化したもので、PMRの炎症が生じる部位に関して参考になったのでまとめた。
 
 
<歴史>
PMRは1888年にWilliam Bluesが報告したが、以降根底のメカニズムを探索する目的で病理学的な検討が行われてきたがはっきりとした首座は掴めていなかった。
・筋肉の浮腫と血管周囲の軽度の炎症+筋膜への細胞浸潤の記載(Ann Rheum Dis. 1964 Nov;23(6):447-55.)
・肩甲上腕関節の組織ではCD4+T細胞とマクロファージの浸潤を伴う軽度の滑膜炎(Arthritis Rheum. 1996 Jul;39(7):1199-207.)
その後PMRの発見から100年ほど経った1999年に発見が。
・Cantini らがPMR患者で高齢発症のRAと比較して肩峰下滑液包炎の頻度が優位に多く関節の滑膜炎や液体貯留・上腕二頭筋腱の腱鞘滑膜炎は差がないことを超音波で報告した(J Rheumatol.1999 Nov;26(11):2501-2.)
その後
MRIを使用して肩に関して関節包の外と軟部の炎症がRAと比較してPMRで優勢であることが確認された(J Rheumatol.2001 Aug;28(8):1837-41.)
・同筆者によってMCP関節においても関節周囲により強いGd造影効果を認めた(Arthritis Rheum. 2007 Oct;56(10):3496-501).。
 
上記などからPMRは滑液包や関節周囲に炎症がありそう。
PET-CTや造影MRIでより個別な解剖構造を正確に理解できるようになった。
・具体的にはRAやSpAと比較して頸部や腰椎の棘突起間、坐骨結節周囲に高集積を認めた。
・両者とも滑液包によるものと考えられていたが、後者はハムストリング腱周囲炎であることがPET/MRIの融合研究や造影MRIで証明された(Rheumatology (Oxford).2018 Feb 1;57(2):345-353.Clin Exp Rheumatol 2018 Sep-Oct;36 Suppl 114(5):86-95.)。

・造影MRIの研究では腱周囲炎から腱内部の炎症まで描出され、観察されたMRIパターンはexternal peritendineumによるものと考えられた。

・実際にTCZの使用によりPMRで観察されるMRIでの筋膜性炎症が消失することも確認されており、筋や腱周囲の膜の関与は注目に値された(J Rheumatol. 2019 Dec;46(12):1619-1626.)。

→以上のような主に画像からの洞察によりPMRの病態が "筋肉と腱を取り囲むperimysiumとperitendon"が自己免疫の標的抗原であると考えられている。
 

 

<実際にPMR患者でPET集積が起こる部位>
→perimysium・peritendonとそれらに隣接する滑液包や関節包に異常が認められる!
①肩、転子部含む股関節
注意点としては上腕二頭筋長頭にも炎症が起こり、場合によっては肘の遠位端にも炎症が見られることがある:腕から肘関節まで痛みがはしる現象を説明しているかも?(確かに筋腹が痛む人がいる気がする・・・)

同様に股関節も寛骨大腿関節周囲に筋肉の起始部にも注目が必要

 

また、肩や腰の関節内の異常信号は一般的に検出され、RAやSpAの区別はできない(とされている)。

Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2020 Sep;47(10):2461-2468.

 
例外的に胸鎖関節の取り込みはPMRに対する特異度が高い。

Rheumatology (Oxford).2022 Mar 2;61(3):1072-1082.

棘突起間滑液包・・・下の棘突起の基部から生じ、黄色靱帯の背側表面から上の棘突起の下側まで伸びる狭いスリットで脂肪と(比較的ほとんどいないが)滑膜組織が混在する空間。いわゆる滑液包のように嚢胞状ではない?

Ann Rheum DiS. 1982 Aug;41(4):360-70.

 

③坐骨結節~膝の内側
坐骨結節周囲の取り込み増加はハムストリング(特に半膜様筋・および大腿二頭筋長頭の共通腱起始部の腱周囲炎)に対応している。
筋肉量が多く、取り込みも比較的大きい。

膝の集積は線維性関節包と解剖学的に相関があるとされ(Rheumatology (Oxford). 2018 Feb 1;57(2):345-353.)、後面内側の炎症は遠位の半腱様筋の腱周囲炎と薄筋に起因すると考えられている(恥骨結合の炎症も報告されていることからの仮説? Radiol Oncol. 2017 Jan 14;51(1):8-14.)。

 

④手と手首
末梢関節炎の関与はcontravertialである。一部の専門家は手首や手の腫れがあればseronegative RAと診断している。しかし臨床や画像の観点では、このアプローチはevidenceに基づいたものではなく患者の約半数が手や手首に症状を有しており(Arthritis Rheum. 1998 Jul;41(7):1221-6.)、同様の割合でPET-CTでも取り込みが見られる(Rheumatology (Oxford). IF: 5.5Q12018 Feb 1;57(2):345-353.)。
取り込みの仕方として関節ベースのパターンと掌側のパターンがあり、掌側は屈筋腱鞘炎に対応している。

Rheumatology (Oxford). 2018 Feb 1;57(2):345-353.
RAとの鑑別でMCP関節の関節包外の炎症が重要であり(Arthritis Rheum. 2007 Oct;56(10):3496-501.)、コトントロールと比較して腱鞘炎の発生がはるかに高いことからも関節外の症状は重要である(Rheumatology (Oxford).2011 Mar;50(3):494-9.)。
RS3PEがPMRのスペクトラムの一部かもしれない。

Arthritis Rheum. 2007 Oct;56(10):3496-501.

Rheumatology (Oxford).2011 Mar;50(3):494-9.

 
⑤血管との関連
PMRの1/5はGCAを併発するが、GCAの50%はPMRのような骨格筋症状を経験する。
PMRでも血管に弱い集積を認めることがあるが、LV-GCAの集積は肝臓と同程度以上の集積である。肝臓以上の集積は治療の価値があるが、弱い集積に治療が必要かどうかは定まっていない。しかし難治性のPMRに潜在的なLV-GCAが併発している可能性は高い。
実際にPMRの60.7%で血管に集積を認め、予測因子にはびまん性の下肢痛(OR 8.8)、骨盤部痛(OR 4.8)、炎症性腰痛(OR 4.7)が同定された。

Semin Arthritis Rheum. 2019 Feb;48(4):720-727.

 

(コメント)

今回のperimysium/peritendium仮説は主に画像からのアプローチであるため病理学・分子学的にも解明が待たれる。2022年には滑液包内のマクロファージにもIL-6やGM-CSFが発現していることがわかっており(Ann Rheum Dis.2023 Mar;82(3):440-442.)

、そのマクロファージの由来を辿れば炎症の元がわかるのだろうか?