膠原病内科日記

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VEXAS症候群と他の空胞が出現する疾患とのスメアの違い

VEXAS症候群は2020年にNEJMで初めて報告され、世界中でどんどん報告が増えている疾患であるが、日常臨床でも普通に出会う。

VEXASの特徴として骨髄のスメアで未熟な細胞に空胞が出現することが特徴であるが、銅欠乏や慢性炎症でも出現するため区別が難しい。今回Lancet hematologyにVEXAS症候群の空胞の特徴についてまとめたレビューが出版されており、その文献を参考に現時点でどのように区別していくのかまとめた。

参考:Vacuoles in bone marrow progenitors: VEXAS syndrome and beyond

 

まず空砲が骨髄スメアで見られる疾患だが以下のものがある。

<コンディション>
・スメア作成の遅延 *
・慢性炎症

<中毒>
・アルコール乱用
・クロラムフェニコール中毒
・銅欠乏
・Menkes病**銅の吸収不良によるX劣、生後2~3ヶ月で発症)
亜鉛中毒(誘発性の銅欠乏)

<悪性腫瘍>

・悪性腫瘍の骨転移
・組織球症やリンパ腫細胞の空砲
・ALL
・AML

・MDS
・VEXAS

<ミトコンドリア機能不全>
・Pearson症候群 ***

・Kearns-Sayers症候群 ****

 

*保存日を経るごとに細胞質の空砲が増加した(Spurious Dyserythropoiesis | American Journal of Clinical Pathology | Oxford Academic)

**銅の吸収不良によるX劣、生後2~3ヶ月で発症

***ミトコンドリアDNA欠乏による先天性ネフローゼ症候群、早期発症腎不全、小瞳孔を伴う眼球異常、および重度の神経発達障. 害の合併を特徴とするまれな原発性糸球体疾患

****ミトコンドリアDNA異常による進行性外眼筋麻痺,網膜色素. 変性,心伝導ブロック

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その中でVEXAS 症候群は
①空胞が 1 つの系統だけで見つかるよりも、骨髄球系と赤血球系の前駆細胞の両方で見つかる
②VEXAS 症候群の人の空胞を持つ細胞は初期前駆細胞に多く、より成熟した前駆細胞における空胞化細胞の割合はUBA1 変異を持つ人と野生型 UBA1を持つ人では空胞は3%以下でほとんど差はない
③1細胞あたりの空胞の数が骨髄球系細胞と赤血球系細胞で同程度であっても、初期骨髄前駆細胞では空胞化がわずかに優勢
という特徴を持つ。
 
具体的には以下の研究などを参考にしている
空胞を持つ細胞の割合
初期好中球前駆細胞(UBA1+ vs WT=35% vs 14%)と初期赤血球前駆細胞(25% vs 6%)
・より成熟した細胞にほとんど空砲を有する細胞はなく有意差はなかった(3%以下)。
一つの細胞の空胞数
・初期好中球前駆細胞(UBA1+ vs WT=平均6.5 vs 2.9)と初期赤血球前駆細胞(5.8 vs 2.7)と有意差を持って多かった。
 
このような特徴を踏まえ上記のレビューでは空胞の分布で以下のような見分け方を提案している。

★ちなみに空胞のない、または少ないVEXASも存在しエクソン3のMet41のホットスポット部位を含まないUBA1変異を有していると考えられており、軽度の自己炎症症状を示すと現時点では考えられている。

 

Eosinophilic Giant Cell Arteritis

若年者ではjuvenile temporary arteritis with eosinophiliaというGCAの類縁疾患と考えられている疾患があり側頭動脈の好酸球性炎症が特徴とされているが、GCAにおいてもある研究では8%の患者好酸球浸潤があることが知られていた。
また1991年の研究で好酸球とその顆粒(eosinophil cationic protein (ECP))がGCAの病態に寄与していることを示していた。

Deposition of eosinophil cationic protein in vascular lesions in temporal arteritis

 

今回動脈壁に好酸球浸潤が目立つ症例の特徴について検討した研究が出版された。1986年1月から2013年12月までにTABを受けたGCA疑いが連続して同定(888検体)され、側頭動脈に炎症を伴っていた患者は354検体であった。その中でInflamed temporal artery: histologic findings in 354 biopsies, with clinical correlationsに記載されて4つのフェノタイプに分類、transmural inflammation(TMI)のあった254検体を解析の対象とした。
病理は臨床情報にアクセスできない一人の医者が診断を行った。

・全身症状・頭痛を中心とするCranial sympton、側頭動脈の異常、顎跛行が有意差を持って多かった。CRPも優位に高かった。
・病理所見ではLaminar necrosis、Acute thrombosisを有意に認めた。GCAで非典型なFibrinoid壊死は好酸球浸潤をきたすGCA患者でも認められなかった。
・ベースラインの好酸球の割合と絶対数は好酸球有無で差を認めなかった。
・治療による転機も差がなかった。
好酸球GCAは追跡(125+-74M)データが存在し、発症時に喘息・アレルギー性鼻炎・鼻茸・EGPAの特徴を持つ患者はおらず、追跡コホートでもそれらのアレルギー疾患やEGPAを発症した症例はいなかった。

 

(コメント)
確かに好酸球浸潤の目立つGCAいるな〜と思っていた。今後注目していきたい。

トシリズマブ使用中に感染症を示唆する症状がある場合には好酸球に注目することで感染症を予測できる、かも?

デザイン:
単施設・後ろ向き研究
トシリズマブ(TCZ)使用中に感染症の疑いで予定外の入院した患者(2009-2020)
好酸球数、CRP、好中球数、、リンパ球数、Eo/Nx1000の識別能をAUCで評価した。
 
リザルト:
TCZで治療を受けた163人中41人が予定外の入院をした。
年齢の中央値は59歳(IQR52-66)で82.9%は女性であった。
20人(48.8%)が感染症と診断された(肺炎30%、関節・骨感染症25%、消化管感染症15%、4人(20%)で菌血症を伴っていた)
入院時の好酸球感染症で有意に低かった。

→Eo<40 /mcLでは感度50%、特異度91%で感染症を示唆した。
CRP>0.5mg/dLは感染症の半数以上(11/19)で観察されたが、非感染症グループでは3/20であった(感度 58%、特異度 85%)

好酸球/好中球<11.8であることはCRPよりも精度が高く感染症であることを予測した。
 
おまけ:
健常者における感染性と非感染性の鑑別→好酸球<40/mcL感染症を示唆した。
septic arthritis vs crystal arthritisにおいて好酸球減少(<50/mcL)は感度50%、特異度76.9%、PPV63.4%でseptic arthritisを予測した。好酸球減少(<50/mcL)と好中球>10500/mcLと組み合わせると感度29.8%、特異度88.5%、PPV73.9%であった。
 
<まとめ>
好酸球が40~50以下であることは感染症を示唆しそうである。TCZ使用中でもちゃんとした感染症の場合はCRPが上がってくる印象があるが、CRPが上昇しないレベルでは好酸球にも注目したい。
TCZ使用中にCRPが上がる条件など(感染症の種類で上がるのか?、投与した時期によるのか?)などは今後の検討課題だろう。

IgG4関連疾患のκ/λ ratioは増加することがあり、Mタンパク陽性とみられることもある。

IgG4関連疾患(IgG4RD)でfree light chain(FLC)の比が偏った症例を散見する。しかも電気泳動検査でMタンパクを考えるバンドを認めることもある。しかしながら骨髄はintactで恐る恐るIgG4RDとして加療してみる。

これはほっておいてもいいのだろうか?

 

今回IgG4RDでのFLCとMタンパクに関してまとめてみた。

 

<そもそもfree light chainとは?>

 

・抗体はHeavy chainとLight chainで構成されるが、Light chainはH chainより40%程度多く作られるため遊離したLight chainができる(free light chain)。
 
・健常人の正常値はκ型FLCは7.3[3.3-19.4]mg/Lでλ型FLCは12.7[5.7-26.3]mg/L。κ/λ ratioは0.26-1.65が正常範囲とされている。
・腎不全患者ではκ鎖のクリアランス不良からeGFR 45 ~ 59mL/min/1.73 m 2→0.46~2.62、30 ~ 44mL/min/1.73 m 2→0.48~3.38、< 30 mL/min/1.73 m 2→0.54~3.30と増加する。

Defining new reference intervals for serum free light chains in individuals with chronic kidney disease: Results of the iStopMM study | Blood Cancer Journal

・多発性骨髄腫、リンパ腫ではモノクローナルな抗体産生が起こり、一方のみのFLCが増加、κ/λ ratioが開大する。

 

<IgG4RDにおけるκ/λ ratio>

今までに3つの研究
16人のIgG4RD患者
Mタンパクを有する患者なし。

 


腎不全のないIgG4RD患者のうち5/12(43%)は1.65より高値であった(1.25~5.11)

腎不全(eGFR<75)の患者は4人含まれ2人は3.01より高値であった(1.25 ~ 5.11)。治療に伴い比は正常化した。

 

Serum immunoglobulin free light chains and their association with clinical phenotypes, serology and activity in patients with IgG4-related disease - PMC

IgG4RD 52人 vs シェーグレン症候群(SS) 25人 vs サルコイドーシス 15人

28.9%でκ/λ ratioの上昇を認めた(1.33 0.35-3.92)。

表現型ごと違いはなし

腎機能悪化症例はよりκ/λ ratioに違いを認めた(腎機能障害のある患者11人)



Serum free light chain assessment in type 1 autoimmune pancreatitis

AIPにフォーカスした研究

37人のAIP患者→1.43 (0.84-3.24)・・・割合は不明

<κ/λが大きくなるメカニズムの推測>

IgG1ではκ/λの発現に偏りがあり2.4:1の比だが、IgG4は8:1とκに大きく偏っている
リアランス不良だけでは説明できない。
 

<Mタンパク陽性のメカニズムは?>

上記のように偽κ増加を呈し、SPEPではMピークの様に見えることもある。
また電気泳動でもIgG4は幅がせまく陽性になるためG4が多いとMバンドの様に見えることもある。

https://academic.oup.com/ajcp/article/142/1/76/1761316

 

(感想)

IgG4RDと多発性骨髄腫の鑑別が問題になったときは基本に立ち帰り、κやλの値やSEPEやMバンドの形状をきちんと見る必要がある(検査技師が判断している場合が多いと思うので)。またMMが捕まらなくても治療でκ/λはよくなるのでフォローしていくのも重要だろう。

 

好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)とCK上昇、筋炎

先日行われた関東リウマチ地方会でEGPAと炎症性筋炎(の病理像)が合併した症例が報告されていた。実臨床でも他のANCA関連血管炎の筋痛や大血管炎に伴う下肢筋炎様症状の際にはCK上昇を認めないことが多いが、EGPAではCK上昇する例も散見されると思っていたため深掘りしてみた。

 

まず実際にAAVの筋生検の有用性を検討した研究でもEGPAでのみCK上昇が見られており、EGPAに特徴的な症状の可能性がある。

Muscle biopsy in anti-neutrophil cytoplasmic antibody-associated vasculitis: diagnostic yield depends on anti-neutrophil cytoplasmic antibody type, sex and neutrophil count

 

EGPAに関する韓国からの単施設研究では一般的に神経障害では障害されにくい近位筋の筋力低下を6/24で認めており、神経障害以外の機序も疑われる。

 

Clinical Characteristics and Treatment Response of Peripheral Neuropathy in the Presence of Eosinophilic Granulomatosis with Polyangiitis (Churg-Strauss Syndrome): Experience at a Single Tertiary Center - PMC

 

一方で病態に関してEGPAに合併する炎症性筋炎(not 血管炎)の報告自体は少なく現時点で検索できる範囲では4例ほどにとどまっている。*血管炎も含む筋障害は③の文献でreviewされている。CK上昇は血管炎の病理のみでも起こっている。

 

①74歳男性 重度のびまん性筋力低下

CK=3708 ANCA陰性

電気生理学的研究により、四肢すべての運動伝導と感覚伝導が保存されていることが実証された。針筋電図検査ではミオパチーパターンであった。

写真やイラストなどを保持する外部ファイル。
オブジェクト名は 12891_2014_Article_2327_Fig1_HTML.jpg です。

 

好酸球が豊富な壊死性血管炎+筋炎を示唆する萎縮した筋繊維、核の内在化、筋の貪食像などを認め、MHC class1の筋繊維での過剰発現を認めた。

Eosinophilic granulomatosis with polyangiitis (Churg-Strauss syndrome) presenting as diffuse myositis - PMC

 

②78歳男性 神経障害に先行する下肢の筋痛・筋力低下
CK=559 p-ANCA陽性

筋力低下の割に神経伝導検査で目立った異常なく、針筋電図検査では第 1 背側骨間筋、上腕二頭筋、内側腓腹筋、前脛骨筋に異常な自発電位が認められ、活動性のミオパチーを示唆した。

An external file that holds a picture, illustration, etc.
Object name is jcn-16-717-g001.jpg

 

endomysium近くまでperivascularな炎症細胞浸潤を認め、筋炎に伴う筋壊死を示唆する筋繊維の萎縮と核の内在化を認めた。

A Case of Myositis Preceding Neuropathy in Eosinophilic Granulomatosis with Polyangiitis - PMC

 

③82歳女性

MPO-ANCA陽性

CK=2627

MRIで異常信号を認め、筋病理は好酸球性筋炎に矛盾ない所見

Eosinophilic granulomatosis with polyangiitis presenting with myositis: case based review

 

スペイン語のため読めず

孫引き論文では71歳男性

CK=2245 MPO-ANCA陽性 endomysiumとperivascularに炎症細胞浸潤を認め筋炎に矛盾なし

[Churg-Strauss syndrome presenting as polymyositis]

 

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EGPAによる筋障害というとそもそも心筋炎の方が想起しやすい。

2020年に報告されたEGPAに合併した心筋障害のSRでは、16人に心内膜の生検が行われ、13人で好酸球性心筋炎の所見が得られた。また17%でANCAが陽性であった。

Cardiac Involvement in Eosinophilic Granulomatosis with Polyangiitis: A Meta-Analysis of 62 Case Reports - PMC

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(まとめ)

EGPAに筋炎は伴う可能性があるが、症例の蓄積が足りない印象。個人的には好酸球による筋障害がkeyだと思う。

実臨床においてEGPAの筋炎を検出するには詳細な電気生理的検査や針筋電図を行い脱力の原因を推測する必要を感じた。また近位筋の障害には注目したい。

MPAやGPAにおける診断時の好酸球数と臨床的特徴

韓国からの研究
P:
治療介入前のMPAとGPA(wattsのアルゴリズムとrevised CHCC2012により診断/基本的にACR・EULAR2022 criteriaも満たす)で好酸球が1000/mm3未満の患者
N=224(MPA=152,GPA=72)

好酸球数はBVASとfive factor score、ESR、CRPと相関。

また死亡した患者や心血管イベントや腎病変のある患者では優位に好酸球数が多かった。GPAとMPAで比較するとMPAで優位に好酸球が多かった。

*MPA患者では好酸球数とBVAS、ESRの相関を認めたが、GPA患者では好酸球CRPでのみ相関を認めた。
 
好酸球数≧175.0/mm3MPA/GPAはそれ以下と比べて累積死亡が多く、感度77.8%、特異度51.6%で全死亡を予測した。*多変量解析で男性やBVAS、FFS、Dlp、血清albは全死亡と独立して関連していたが好酸球は含まれていなかったため従来の死亡リスクには匹敵しない。

 

 
考えられる機序:
①診断時のESRやCRP好酸球の相関があり炎症を反映している可能性
②AAVで好中球に作用するケモカイン(IL8など)やC3a、C5aが高レベルの炎症に関与しておりそれにより好酸球が活性化される可能性。
③EGPAと部分的に病態が関連している可能性
 
(感想)
大阪大よりMPAに関してmonocyteが活性化するphenotypeの報告があったが好酸球が増加・活性化するphenotypeもあるのか?

骨痛の原因

<マクロ>
痛みの経路

 

 

骨は主にCGRP+C線維とAδ線維によって支配されている。またNGFを媒体するTrkA(トロポミオシン受容体キナーゼA)受容体を発現する骨支配神経ニューロンは関節や皮膚・筋肉など他の組織の神経を支配するニューロンよりはるかに高い。これはNGFシグナルが骨軟骨前駆細胞の拡大に不可欠であることとも関連している。
 
骨痛を起こす疾患
骨折
感染
自己免疫(AS、RA、OAなど)
腫瘍(転移性腫瘍・白血病・骨腫瘍・Paget病)
虚血(骨壊死)
内分泌(hungry bone syndrome)
薬剤(BP製剤のACR) など
 
 <ミクロ>
3つの主な細胞と骨痛への役割
破骨細胞:骨吸収による酸性環境は骨を支配する侵害受容神経を刺激する。また前破骨細がPDGF-BBを分泌して血管新生を促進し軟膏下骨の血管新生と感覚神経支配亢進で痛みに関連している可能性がある。
・骨芽細胞:破骨細胞ほど直接的な影響はなさそうだが、neurotrophic factorsの分泌低下を通して感覚神経にとって不利な環境を作ったり、破骨細胞の調整を通して間接的に感覚神経に影響を与える。
・骨細胞:nerve groth factorsを産生する。
 
痛みの原因
⚫︎破骨細胞・・・多くの骨格疾患の痛みで亢進している
⚫︎骨芽細胞・・・カムラティ・エンゲルマン病(CED) では骨芽細胞活動増加が示されている。ステロイド投与による骨芽細胞活性抑制により迅速な痛みの改善があり、骨芽細胞の潜在的な役割を示唆している。
⚫︎感覚神経・・・進行骨化性繊維異形成症(FOP)でが異所性骨化している部位で感覚神経支配の亢進が検出されている。この神経はサブスタンスPやCGRPを放出することで神経炎症を開始することができる。
⚫︎交感神経・・・CRPSでは交感神経の調整不全で血管収縮と拡張のバランスが崩れ骨代謝への血液供給に影響する。また交感神経亢進による破骨細胞亢進も慢性的な骨痛を引き起こす。
⚫︎炎症細胞によるサイトカイン・・・RAやAS、がんの転移、骨折後の疼痛に関連している。
 
(参考)