膠原病内科日記

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免疫チェックポイント阻害薬使用時の併存する自己免疫性疾患に対する免疫抑制剤の考え方 参考: Ann Oncol . 2020 Jun;31(6):724-744.

・化学療法中のリウマチ患者の治療に関してはほぼ定まったものがないのが現状であるが、一般的に従来の抗がん剤治療(殺細胞薬)が使用される場合、血球減少などの副作用もあり免疫抑制剤や生物学的製剤は中止される傾向にあった。
参考:あなたも名医! ピンチを乗り切る関節リウマチ診療
・実際のところ悪性腫瘍をともなう関節リウマチ患者の治療推奨もさまざまである。
 
・しかしこのような治療法は主に殺細胞薬+免疫抑制剤時代の風習を踏襲したものであり、がんの治療において免疫チェックポイント阻害薬(ICI)が登場し、いささか状況がかわりつつある。
・ICI使用時の自己免疫性疾患の加療は2020年に出版されたESMOのReviewに基づいて診療されることも多いと思われる。Oncologist中心のレビューであるが膠原病科医にも参考になるため、要点をまとめた。
 
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・まずbio全盛のいま、各国の膠原病関連のガイドラインをみてみると、BSR2019では悪性腫瘍患者では新規のbDMARDやJAKiの開始は推奨されていない。ほかの免疫抑制剤に関しては明確な推奨はない。
・またACR2021関しては推奨の言及はなく、EULARのpoint to considerでは自己免疫性疾患のICIの投与は禁忌ではないが免疫抑制剤レジメンは可能な限り低用量にとどめるべきとしている。
・2024年に発表されたJCRの関節リウマチガイドラインでは"悪性腫瘍を治療する主治医と連携し、十分な説明による患者同意のうえ、bDMARDを使用することを推奨する"となっている。

 

 

*Nature review rheumatology(Immune-checkpoint inhibitor use in patients with cancer and pre-existing autoimmune diseases)の推奨:

 

こちらも今回紹介するレビューを踏襲したものとなっている
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・前置きがながくなったがここからESMOのレビューについて要点をかいつまんで紹介する。
 
ICIは自己免疫性疾患の再燃を増やすのか?
・123人の自己免疫性疾患がSRされた研究。
>46.2%の自己免疫性疾患患者は活動性あり。
>20.8%はステロイド≦10mg/day、12.9%はcsDMARDs、1%にbDMARDs、4%に免疫抑制剤が使用されていた。
>41%の患者が再燃を経験し、25%にde novo irAEs、9%で両方が発生した。
>自己免疫性疾患の再燃はPD-1/PD-L1 薬で多く(62% vs 36%)、de novo irAEsはipilimumabで多かった(42% vs 26%)。
>高用量のステロイドは62%の患者で必要であり、他の免疫抑制剤は16%で必要であった。

 
・またbaselineでの免疫抑制剤の併用自体は原疾患のFlare抑制効果はなかったとする研究もある
 
・ICI使用による自己免疫性疾患の増悪は軽症であることがおおくRAのフレアではすべてGrade≦2であった。
 
・疾患ごとのフレア率は以下のようになっている

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36198831/

 
*SITCのガイドラインでは再燃率が50%以上見積もられる場合にはICI以外の治療を考慮をふくむ慎重な治療選択が推奨されている。
 
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▪️免疫抑制剤使用はICIの効果に影響するのか?
・自己免疫性疾患や移植患者は多くのTrialではICIの投与により増悪する可能性が危惧されTrialからは除外されている
・しかし、実際にはメラノーマや非小細胞肺がん(NSCLC) において、免疫抑制剤が投与されていない、あるいは少量投与されいる自己免疫性疾患で原病が増悪した患者は20~40%程度でMinorityあった。
 
免疫抑制剤の中でもselective immunosuppressant(SI)=インフリキシマブ、トシリズマブ、ベドリズマブにおいて小規模な研究でICI併用の安全性と有効性が報告されている。
・また、生物学的製剤はガン既往のあるリウマチ性疾患患者のがん再発率を上昇させることはないことが示されている。

 

 
・しかしステロイドをふくむnonselective immunosuppressant(nSIs)の使用ではnSIsを使用していない患者と比較してICIの奏功率に差が見られた(15% vs 44%)。
 
・特にNSCLCの研究ではbaselineステロイドに関してはPSL≧10mg /日の場合ではoutcomeがわるく、PFSや全生存率も有意に低かった(PFS HR1.31 P=0.03, overall survival 1.66 P<0.001)

 
・ほかにもICI治療開始28日以内に最低でも1日にPSL≧10mgのステロイドが投与されていた場合、Poor outcomeで、PFSやOSも悪かった。
・ベースラインの免疫抑制剤に関しても自己免疫性疾患や移植患者でICIの効果減弱が報告されている。
Ex)

 
・免疫チェックポイント阻害薬と抗インターロイキン抗体のシナジーは注目されており、病態的にICIの効果を高める効果が推定されている

IL6阻害薬に関してはマウスレベルで免疫チェックポイント阻害薬の有効性を増加させるエビデンスもある。
 
・irAEに対して使用されたTNF阻害薬に関してもICIの効果を損なわない、ないしステロイド使用よりも良い効果をもたらす可能性が観察研究からは示されている。

・TNF阻害薬に関してもマウスレベルでのICIとの相乗効果がしめされている。
*TNF阻害薬とICIのレビュー:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33686279/
 
・しかしFDAはTNF阻害薬の悪性腫瘍やリンパ腫発生のBlack box warningを出している。
・乾癬に関してもTNF阻害薬で腫瘍リスク増加が示されている(一方MTXやウステキヌマブは示さなかった)=腫瘍に関してはTNF<IL12/23?
 
・IL17阻害は腫瘍増殖を促進する可能性が指摘されている。=IL17<IL12/23
 
・B cell depletionはPD-1阻害薬に対してnegativeな効果はない。=RTXやBAFFはOK?
 
 
免疫抑制剤使用に関するまとめ:
生物学的製剤とICIの併用は問題なくむしろプラスの効果がある可能性がある。
そのなかでIL6阻害薬やIL12/23阻害薬はTNF阻害薬と違い脱髄疾患を増悪させず、IL17阻害薬とちがってIBDを増悪させない→irAEが起こりうる状況でも使用しやすい根拠となっている。
→以上より筆者らは"nonselective immunosuppressant(nSIs)をselective immunosuppressant(SI)にICI導入2~4週前に置換し、ICI治療中もSIを継続する"アプローチを提案している。
2つの大きな利点:
①最適なICIの効果
②severeな自己免疫性疾患の増悪を予防
具体的にはステロイドMMF、AZA、MTX、Taclolimus、CyA、CYC、JAK阻害薬は中止し、各疾患ごとに推奨されるSelective immunosuppressant(SI)に変更する。
*このStrategy自体は専門家のもとで実施され、今後データが蓄積されるべきではある。
 
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<各疾患ごとの治療アルゴリズム>

*抗ARS抗体症候群に関してはRTX+IVIGへの切り替え推奨、強皮症はRTX baseあるいはTCZ baseの治療レジメンへの変更推奨

*この文献の治療戦略はASCO2021にも採用されている。
 
 

コメント:

ICI+殺細胞薬ではまた話が変わってくるので注意が必要。殺細胞薬使用時は従来通りステロイドメインの治療に切り替えていくのが無難だろう。今後のエビデンス集積が期待される!