欧米と比較し日本ではHLAB27陰性の強直性脊椎炎(AS)が多く、Typicalな症例以外は診断に苦慮したり見逃されていることも多い。
HLA B27陰性ASについてはデータも限られており、今回ACR opne Rheumatologyにreviewが出版されたためまとめた。
HLAの発見と有病率
・HLA B27は1973年にASとの関連が報告された。
・アメリカでは非ヒスパニック白人で6.8%、メキシカンアメリカンで4.6%、他民族で3.8% HLA B27が陽性とされる。
・リスクアレルとしてHLA B*2705、*2704が報告されており、HLA B*2709は弱いリスク、B*2706は保護的に働くと報告されている。
・カナダではaxSpAにおいて25%はHLA B27陰性であると報告されている。他の報告では40%程度HLA B27陰性が報告されている。
・家族性の報告はあるが、HLA B27の遺伝への関与は20%程度であることがわかっており、他の遺伝子の要素も大きい。
HLA B27陽性axSpAのPathogenesis
・仮説として以下が考えられている
①MHC B27/ペプチド複合体による細胞障害性CD8 T細胞活性化
②細胞表面へのジスルフィド結合HLA B27 重鎖ホモダイマーの不適切な発現により、抑制性NK細胞受容体のKIR3DL2陽性CD4 T細胞の活性化を介するIL-17産生の増加
③misfolded HLA B27の小胞体への蓄積がunfolding タンパクの蓄積を引き起こしとそれを介したIL23/17 pathwayの活性化
・最近では腸内細菌叢の変化による発症も強調されている。
HLA B27陰性axSpAのPathogenesis
・GWAS研究でRAP1、IL-23R、RUNX3、TNFR1/LTBR、IL-12B、PTGER4、TBBKP1、ANTXR2、CARD9、IL-1R2、TRADD、STAT3の関連は示されているが全てB27陽性ASでの研究である。
・これらの既知の遺伝子は遺伝率が低い(30%)ことががわかっており、また個々の遺伝子異常は一般人口にもコモンである。したがって遺伝性は対立遺伝子によるものが考えられている。
・そういった対立遺伝子は相対的に疾患感受性に関与し、環境因子とともに発症の閾値に達成する。この閾値を超えるためには疾患リスク遺伝子複数で十分であるためHLA B27陰性であってもASを発症しうる。
他のHLA B27 allotype
・HLA B27 subtypeはArg2(R2) モチーフを持つペプチドと結合できる特徴的な構造があり、これはHLA B27に特徴的と考えられていた。
・しかし、HLA B39などもこのモチーフを持つペプチドと結合できることが示された。
・HLA B7、14、39、60がASとの関連が報告されている。
・またコホート研究ではHLA B27陰性ASにおいてB8、B14、B15、B35、B40、B44、B47、B49、B51、B57の対立遺伝子を持つことが示され、これらの多くはHLA B27陽性ASにおいても対立遺伝子として存在している。これらの対立遺伝子の組み合わせが疾患の不均等に関与していると思われる。
・アフリカではASとHLA B*1403との関連が強く報告されている。
・HLA B60とB27の組み合わせは他の個別のアロタイプを同定するより優れたマーカーになることも報告されている。
axSpA発症におけるHLA B27以外の遺伝子
・HLA B27陽性患者の5-10%でのASを発症し、HLA B27陽性患者と陰性患者で重複する症状があるためHLA B27以外にも発症の要因があることが考えられる。
①CARD9=caspase recruitment domain-containing protein 9
・CARD9は主に真菌感染に関与しているパターン認識受容体に応答するタンパク。
・ CARD9のシグナル伝達はマクロファージと樹状細胞を活性化、IL23の産生を促し、最終的にTh17の活性化をもたらす。
・CARD9のSNPは漢民族やイギリス系白人においてASと関与している。
・HLA B27陰性イラン人においてAS発症に関して防御的に働くCARD9 SNPが同定されている。
②NOD2=nucleotide binding oligomerization domain containing 2
・NOD2とCARD9は細胞質で細菌細胞壁のペプチドグリカンに反応して複合体を形成してMAPKの転写変化を介して免疫応答を制御している。
・マウスレベルでNOD2遺伝子欠損はIL17産生T細胞の増加とIL17の増加により関節炎が増強した。
・NOD2 リガンドを投与されたAS患者の単球では炎症誘発遺伝子の発現が増強しており、これらからNOD2はASの重要なドライバーであると考えられている。
③MIF=macrophage migration inhibitory factor とCD74
・MIFは細胞表面のCD74と結合し炎症誘発性遺伝子を誘発する。
・AS患者はCD74抗体陽性率が高く循環血液中のCD74の増加とMIFの増加が示されている。
・ASモデルマウスから分離された好中球はMIFの分泌が亢進している。
・HLA B27陰性AS患者においても大部分はCD74抗体陽性であり、抗体の存在は疾患活動性とも相関があり、MIFとの関与も疑われている。
④腸内細菌叢
HLA B27陰性SpA患者の特徴
下記の図のような特徴が示されている
・HLA B27陽性患者
→ぶどう膜炎・心臓病変・股関節病変が多い、IBPの有病率が高い、レントゲンの進行もsevere
・HLA B27陰性患者
→末梢関節炎や指炎・乾癬・IBDが多い、疾患活動性が低い、Axial病変が少ない、仙腸関節病変が少ない、対称性病変が少ない
・HLA B27陽性患者では陰性患者より治療反応が悪い可能性があるが、予後含めて不明確なことも多い。
(コメント)
HLA B27陰性ASは疑い症例も含めると潜在的にかなりの人数が日本においても存在しており、診断されなかったり、診断されても治療がなかったり、高額だったりで悩んでいる患者も多いと思われる。日本独自でもSpAのGWAS研究が進み、疾患の理解が進むことが期待される。またHLA B27陰性SpA患者に有効な治療薬の開発(NOD2やCARD9に作用するような薬剤?)の開発も望まれる。