膠原病内科日記

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JAK阻害薬におけるCK(creatine kinase)上昇の機序

JAK阻害薬使用中にCK上昇することがよく見られる。臨床試験ではCK上昇のAEは最大15%程度見られている*
CKレベルは4週ですでに上昇するが、症状が出現したりそれに伴い中止が必要になることも少ない*
 
CK上昇の原因についてはわかっておらず、仮説についてまとめる。
 
 
背景:
CK上昇は一般的には筋障害を示唆しているがJAK阻害薬投与下における筋障害の病理学的な根拠はなかった。
関節リウマチなどの炎症性疾患は多くの場合、サルコペニアを伴っており、疾患コントロールでこのプロセスは逆転する。
目的:
炎症性サイトカインがmyoblastのmyocyteへの成熟を阻害している可能性があり、JAK阻害薬によりその分化は回復し、それに伴い最終分化段階で出現するCKの発現も上昇すると仮説を立てた。myoblastの分化に影響するgp130-mediated cytokines IL6、オンコスタチンM(OSM)、CNTF(ciliary neurotrophic factor)、LIF(leukemia inhibitory factor)*に焦点を当てた。特にOSMの結果を報告する。
OSMはIL6 family(受容体にgp130を含んでいる)のサイトカインであり、JAK1/STAT1/STAT3 pathwayを介してmyoblastの分化を強力に阻害している。(十分なmyoblastができるまで分化を抑制する働きと推測されている)
 
再生時にIL6やCNTF、LIFのmRNAは急速に誘導される。IL6は筋肥大に関与。

 

Mechanisms of cooperative cell-cell interactions in skeletal muscle regeneration | Inflammation and Regeneration | Full Text

LIFはOSMと同様分化を阻害するが、myoblastの増殖を促進しない。

 

 
方法:
ヒト骨格筋myoblastをosm+Upa/Upaと牛胎児血清または飢餓状態で培養しmyocyteへの分化を誘導した。GAPDHをコントロールとしてCKのmRNAの発現を観察した。他のJAKでも同様の検討を行った。
結果:



OSM刺激でmyoblastのmyotubulesへの分化を阻害することでCKの発現低下を観察した。JAKを投与することでCKのmRNA発現が増加することを観察した。
→以上よりJAK阻害薬は炎症によって惹起されたOSMが引き起こしているmyoblastの分化阻害を解除することでCKが上昇している機序が考えられた。
 
OSMはRAの滑膜や炎症環境で高度に発現しており、サルコペニアの原因となっている。
他のJAKでも同様の現象が起こり、クラスエフェクトと考えられる。
 
(コメント)
筋の分化で発現するCKは逸脱してくるのかという疑問は残るが、今のところは仮説としてはこれしかない。
 
この仮説が正しいのであればJAK阻害薬でCK上昇がある患者では薬剤変更や減量を行っていたが、必要ないかもしれない。実際に有症状の患者は見たことないし、またCKが上昇する患者はRAに対しても効果が高い感覚もある。CK上昇する患者と上昇しない患者での効果の違いは今後の検討課題だろう。