膠原病内科日記

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【まとめ】Hypermobility syndrome・・・関節リウマチ・脊椎関節炎 mimicker

"Hypermobility syndrome"は脊椎関節炎や関節リウマチ、変形性関節症の鑑別になる関節の過伸展性による慢性筋骨格痛を特徴とする結合組織疾患のこと。
一般人口の最大3%に見られるとされているが、日本では疾患概念の浸透が十分ではなく、特にプライマリケアにくる慢性関節炎の中で見逃されている可能性がある。
 
今回は比較的よくまとまっているThe American Jounal of Medicineのレビューを中心にHypermobility syndromeについてまとめた。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

▪️自然史
Hypermobility syndromeは下記の病期で進行するされている。
 
0歳〜10代= Hypermobility phase(過剰運動)
 関節の捻挫や挫傷が40%の患者で発生する期間
10代〜20代=Pain phase(痛み)
 関節の不安定性の増加とHypermobilityの低下に伴う広範囲にわたる慢性的な痛みが出現する時期
30代〜=Stiffness phase(凝り)
 関節の過剰運動の減少とQOL低下の時期

The Beighton Score as a measure of generalised joint hypermobility - PMC

 

▪️症状

Non-musculoskeletal symptoms in joint hypermobility syndrome. Indirect evidence for autonomic dysfunction?

 
<筋骨格系の痛み>
関節病変には特定のパターンはないが、一部の患者は炎症性関節炎によく似た全身性の対称性多発関節痛を呈する可能性がある。膝や足首などの体重を支える関節がより罹患しやすい。
 
痛みは通常、鈍い痛みとして表現され、自然に限定される場合もあれば、持続する場合もある。
 
炎症性関節炎とは異なり、反復的な使用や身体活動によって悪化するため、朝のこわばりが長く(30分以上)続くことはまれ。

Chronic pain in hypermobility syndrome and Ehlers-Danlos syndrome (hypermobility type): it is a challenge

 

一部の患者では、半月板または軟骨の刺激に起因する少量の非炎症性浸出液が発生し軽度の腫脹が見られることもある。

後述のrevised Brighton基準ではTenosynovitisやBursitisも症状の一つに含まれている。
同様にEDS-HT(こちらも後述する)の研究では関節炎を伴わない腱炎や滑液包炎を発生しうることが示されている。
<倦怠感>
非常に重度の疲労が伴うことが多く、最大 84% の患者に見られる。
 
<自律神経失調>
約 75% は自律神経失調症を併発する。
EDS-HTではレイノー現象の報告もある。
 
<その他>
・頭痛
女性患者の 75% が片頭痛を併存している。
・腹部骨盤の原因不明の痛み
 
▪️診断
<スクリーニング>5質問法(2点以上で感度84%、特異度85%)

The genetic epidemiology of joint hypermobility: a population study of female twins

 

<診断基準>Beighton score

 

→9点中4点以上でHypermobility syndromeの診断(*元々スクリーニングの検査であり、この基準を診断に用いることには議論あり)
revised Beighton scoreも開発されている。
 

Ehlers-Danlos症候群は除外疾患に含まれているが、Hypermobility syndromeは皮膚症状が欠如していたり、原因遺伝子の特定されていない軽症型(EDS-HT; Ehlers-Danlos Syndrome, Hypermobility Type)と同様のスペクトラム疾患であると位置付けられている。

Hypermobile Ehlers-Danlos syndrome (a.k.a. Ehlers-Danlos syndrome Type III and Ehlers-Danlos syndrome hypermobility type): Clinical description and natural history

 

★診断における注意点:
若年者やアスリートでは関節可動性が高い傾向にあり、若年者の10-20%で複数の関節に過伸展が起こりうることが示されている。

Joint hypermobility

・BS≧4の有病率は4~7歳の小児では64.6%、10 歳では35.6% 、12~13歳では9.4%、13~19歳では11.7%と報告されている。

The Beighton Score as a measure of generalised joint hypermobility - PMC

・しかしながら全ての患者で慢性の筋骨格痛が出現するわけではなく性の約 3.3% と男性の 0.6% 程度で発症するとされている。
・また加齢による影響も考慮しないといけない。33歳以降に診断されるHypermobility syndromeはほとんどがBeighton score≧4に達成しなかった
・"Hypermobility"は加齢とともに減少し、Beighton scoreが4点以上に分類される確率は1歳上がるごとに5.5%減少する。
70歳以上の患者ではBeighton scoreが2点以上の患者は200人中1人もいなかった

Beighton scores and cut-offs across the lifespan: cross-sectional study of an Australian population

 

▪️治療
過剰な関節への負荷を避けるような生活指導が重要。他はテーピングによる関節の固定や理学療法による筋力増強もいいとされるが十分な研究はない。
栄養面では不足しているビタミンCやビタミンDを補うのは効果あるかもしれないが、研究不足。
あとは対症療法(オピオイドエビデンスないので効果不明のため使用注意)。
 
 
(コメント)
体感では有病率はそこそこ多いと思われる疾患群。特に付着部炎や炎症の証拠のない脊椎関節炎、乾癬性関節炎のミミッカーとして重要だと思う。
現時点では過少診断だと思われるが、認知が高まるにつれ過剰診断にもなりうる。特に脊椎関節炎として微妙な患者はエコーやMRIでの付着部炎の証明をしっかりとしていく必要性を再認識した。
 
参考:
Ehlers-Danlos Syndrome, Hypermobility Typeの皮膚所見
外傷後の皮膚所見であるが乾癬と見間違わないようにしたい。