膠原病内科日記

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【まとめ】ARS抗体の各抗体プロファイルごとの症状

ARSはアミノアシルtRNA合成酵素(Aminoacyl-tRNA Synthetase)の略でこれらの酵素に対する抗体がARS抗体である。その中でARS関連症候群(ASS)に関連しているとされる8種類の抗体が報告されていたが、2023年に入り新規に新しい抗体が同定され現時点で9種類の抗体がある。他の自己免疫疾患に関与しているARS抗体もいくつか報告されている。
 
 
各抗体によって微妙に臨床像が異なっているとされているが、Jo-1抗体以外は症例が多くないこともありあまりまとまったものはない。
今回は以下の論文を参考にARS抗体症候群の各抗体について表を作成した。
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Aminoacyl-tRNA Synthetases: On Anti-Synthetase Syndrome and Beyond - PMC

ASS関連のARS抗体

抗体

タンパク名

IIMでの陽性率

臨床像

間質性肺炎

筋炎

Jo-1

HisRS

15-30%

ILD:50-90%
熱:27-70%
関節炎:58-75%
筋炎:57%
筋力低下:59-78%
メカニクスハンド:20-56%
ゴットロン兆候:44%
レイノー現象:19-60%

++NSIP,OP,UIP

++
Jo-1ではnon Jo1より筋炎多い

PL-7

ThrRS

5-15%

IILD:55-76%
熱:34%
関節炎:31%
筋炎:48%
筋力低下:40-52%
メカニクスハンド:17%*
ゴットロン兆候:41%
レイノー現象:38%

++UIP,NSIO,DAD
**間質性肺炎が初期症状のことがある
***RP-ILDの報告あり
Jo-1よりPL-7/12は予後不良

+

PL-12

AlaRS

5-10%

ILD:69-89%
熱:36-44%
関節炎:22-35%
筋炎:36%
筋力低下:17%
メカニクスハンド:48%*
ゴットロン兆候:33%
レイノー現象:44%
食道病変:20%
**肺高血圧の報告あり

++UIP,NSIP
*UIPが多いとされている
**間質性肺炎が初期症状のことがある
Jo-1よりPL-7/12は予後不良

PL-12、OJ、KSは皮疹を伴わず間質性肺炎のみの症状を呈することもある。

+

EJ

GlyRS

<5%

ILD:78-84%
熱:39-60%
関節炎:24%
筋炎:40%
筋力低下:39-55%
メカニクスハンド:25%*
ゴットロン兆候:45%
レイノー現象:13%

+NSIP,OP,UIP,DAD
**間質性肺炎が初期症状のことがある
***RP-ILDの報告あり

+

OJ

LieRS

<5%

ILD:44->90%
熱:13%
関節炎:13-60%
筋炎:40-80%
筋力低下:25%
メカニクスハンド:40%
ゴットロン兆候:8%
レイノー現象:31%

++OP,UIP,NSIP

PL-12、OJ、KSは皮疹を伴わず間質性肺炎のみの症状を呈することもある。

+/++

KS

AsnRS

1-8%

ILD:>90%
熱:5-8%
関節炎:26-31
筋炎:N/D
筋力低下:7%
メカニクスハンド:30%
ゴットロン兆候:8%
レイノー現象:31%

++NSIP,UIP

PL-12、OJ、KSは皮疹を伴わず間質性肺炎のみの症状を呈することもある。

+

Zo

PheRS

1%

ILD:77%
熱:N/D
関節炎:66%
筋炎:77%
筋力低下:N/D
メカニクスハンド:33%*
ゴットロン兆候:0%*
レイノー現象:66%

+NSIP,UIP,OP

++

YRS/Ha

TyrRS

<1%

ILD:62%
**過敏性肺臓炎、皮疹、関節炎

+UIP,NSIP

+

Ly

CysRS

現時点で世界で1人?

・CK上昇のない筋痛、近位筋の筋力低下
間質性肺炎
・関節炎
メカニクスハンド+、ゴットロン-、ヘリオトープ-

?

?

*はComparison of clinical features between patients with anti-synthetase syndrome and dermatomyositis: Results from the MYONET registryより引用 他は上記の論文を参考に作成。

Ly抗体(フランスのリオンで見つかったためLy抗体とのこと ややこしい)は

Mass spectrometry-based identification of new anti-Ly and known antisynthetase autoantibodies | Annals of the Rheumatic Diseases から。

 

その他の非ASS関連ARS抗体

・LysRS(KRS/SC)→ALSと関連?
・GlnRS(JS)→若年性てんかん性脳症に関連?
・TrpRS(WRS)→関節リウマチと関連?
・SerRS抗体→SLEやRAで検出、筋炎では検出なし
 
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症状にFocusした論文もあり、10カ国および63の病院からの828人の患者を遡及的に検討した文献では

Jo-1、PL-7、PL-12、EJ、OJに関して検討されている。

 

最近ではRheumatologyにZoも含まれたコホート研究も報告されており、

Comparison of clinical features between patients with anti-synthetase syndrome and dermatomyositis: Results from the MYONET registry

上記のように報告されている。

 

しかしながら他にも報告はあるが、Jo-1以外の抗体は数が少ないのもあって、正直各抗体で有意な臨床像は内容に思う。現時点ではこの抗体で間質性肺炎が多いとかのケースレポートベース、臨床経験ベースで臨床像が蓄積されている段階だろう。

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間質性肺炎

また間質性肺炎の病理像にFocusした論文もあり、自施設の12例を含む既報の310例の症例を検討した文献では

Pulmonary histopathology of interstitial lung disease associated with antisynthetase antibodies

上記のような病理像で分布していることが明らかになった。

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検査方法

現在日本において保険適応でARS抗体の測定が可能であるが、Jo-1、PL-7、PL-12、EJ、KSを含みOJやZO、Haは含まれていない。その中でOJは比較的頻度が高く注意が必要である。

ARS抗体は細胞質抗体陽性となることが多いのでそこをヒントにするか(中国の研究ではOJ患者で9人中1人でのみRo52抗体陽性であり、そういった意味でも使えるとおもう。)、研究項目にはなるがラインブロット法(EUROLINE)には一応OJが含まれるためそれで同定は可能である。しかしOJ抗体同定のゴールドスタンダートである免疫沈降法と比較しラインブロット法は感度が0%であった報告もあり、検査精度は十分ではない。(https://academic.oup.com/mr/article-abstract/27/3/551/6302375)

最近ではA cubeという検査も開発されており、これでは抗OJ抗体の検出が可能のようである。

 

(コメント)
今回引用させていただいた論文は機序的なことにもフォーカスしており、勉強になった。