膠原病内科日記

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【まとめ】TIPIC症候群

TIPIC症候群"Transient Perivascular Inflammation of the Carotid artery syndrome"の略で古典的には"Carotidynia"として知られている。

急性の咽頭痛・頚部痛で発症する頸動脈に限局的な血管〜血管周囲炎のこと。高安動脈炎や巨細胞性動脈炎と違い一過性の病変であることが多く、NASAIDsのみで自然軽快することも多い。
2017年にはNeurologyにも31歳女性でステロイド投与後12日前で改善した頚部痛の症例が掲載されており、ある程度確立した概念となっている。(https://n.neurology.org/content/89/15/1646)。

 
診断基準:
1927年にFayがCarotidyniaという頚部血管痛を報告し、1988年発行の国際頭痛分類第一版には主分類として掲載されていた。
Internatinal Headache Society Classification Committee criteria for the diagnosis of idiopathic carotidynia

A:以下のうち一つ以上の所見が頸動脈上にある
  1. 圧痛
  2. 腫脹
  3. 脈拍の増加
B:構造的異常がない
C:患側の首の痛み、同側の頭部に放散しても良い
D:2週間以内にself limitingする

しかしながら1994年にはBiousseらが"Myth"だと記載するなど存在があやぶられるようになり、2004年の第2版では主分類ではなく付録でのみ記載され、2013年の第3版ではとうとう削除された。そうした中で2017年にLeclerらが多施設共同でCarotidyna の存在を検証した(1️⃣)。

 
2009年から2016年にかけてacute cervical pain+MRI、CT、USを1個以上行った患者に対してmedical chart reviewが行われ、最終的にCarotidyna に分類される47人が同定された。最終的にLeclerらにより"TIPIC syndrome"と命名され診断基準が作成された
 
Leclerらの基準

1)頸動脈上の急性痛 *頭部への放散はあってもなくてもよい。
2) 偏ったperivascular infiltration(PVI)の画像上の存在
3) 画像診断による他の血管性または非血管性疾患の除外
4) 自然治癒または抗炎症治療により14日以内に改善する
Minor criteriaとして、自然治癒するintimal soft plaqueが存在すること

TIPIC Syndrome: Beyond the Myth of Carotidynia, a New Distinct Unclassified Entity

また同研究では、急性のNeck painで受診した患者のうち推定2.8%にTIPIC症候群の患者がいた計算になることもわかり、多くの患者が見逃されている可能性が示唆された。
 
現時点でTIPIC症候群は現時点で2個の大規模な研究(1️⃣、2️⃣)が報告されており、そちらを参考に詳細な症状などを検討していく。
 
症状:
TIPIC syndrome の痛みは舌骨外側の総頸動脈遠位部に認め触診による圧迫で激痛が走り、ときに顔面方向 に放散することが特徴である。これをFay 徴候と呼び、陽性率は93%と言われている。(日耳鼻 123:1298-1303,2020)
 
1️⃣の論文
47人の患者は男女比1.5:1、発症の中央値は48歳でIQRは39-56であった。96%片側性。全て頚部痛を持ち、4%の患者で熱があり、17%の患者で何らかの神経学的異常を認めた。89%で血液検査で炎症反応を認めなかった。

2️⃣2人のTIPIC症例が含まれた多国籍・多施設研究

 

病理所見:
上記の2つの文献では不明。
Carotidynaで報告されているものになるが、病理組織学的には血管増生と線維芽細胞の増殖、活動性炎症所見を認めた。また炎症の首座に関しては不明で、頸動脈外膜や内膜中膜複合体、あるいは 頸動脈鞘内での血管周囲組織などさまざまな意見がある。(日耳鼻 123:1298-1303,2020)
ただ下記の画像のように外膜にも内膜にも病変があり、全体的に侵される印象もある。

 

 
画像所見:
1️⃣エコー、CT、MRIで頸動脈周囲の組織の増生や血管壁の肥厚を認める。
▪️エコー

2️⃣エコー検査の詳細な検討では
・壁肥厚( or PVI の厚さ)は中央値で5mm[Q1-3 4~6mm]
・肥厚の距離は中央値で15mm[Q1-3 8~22mm]

▪️CT

▪️MRI

 

 

これらの壁肥厚は経過で改善することが示された。

 
治療:
→無治療 or NSAIDs or ステロイド
 
1️⃣72%がNSAIDs、6%がステロイドの治療を受け、最終的に全ての患者中央値13日で改善した。19%の患者で再燃が見られた。

2️⃣16.9%にステロイド加療がなされた。
18.6%の患者で再発が見られた。こちらも14日程度で改善した。


 
(コメント)
自然軽快するため見逃されている可能性はあるが、割と幅広い年齢で発症しうるため高安やGCAなど大血管炎の鑑別に頭の隅に入れておきたい。